「すべての人に安心を」 東十条 八木病院
新しいリハビリテーションの提案
からだと脳をつなぐ 新しいリハビリテーションの提案
~世界に意味を与える身体の回復を目指して~
認知運動療法とは、1970年代にイタリアのペルフェッティという神経内科医が考案したリハビリテーション理論
をもとにした治療体系です。
この理論では、『からだ全体をひとつのシステムとして考え、運動障害を「ある特定の部位の問題」ではなく
「システム全体の問題」としてとらえる』という特徴があります。
つまり、手足がうまく動かないのは手足の問題ではなく、脳と手足のつながりを含む全身の問題というとらえ
方をします。
認知運動療法では「手が動かないから手を動かす」「立てないから立つ練習をする」という訓練ではなく、
「手が動かないのは、システム全体の問題」と考えて、脳のシステムそのものを再構築していくような訓練を行
っていきます。
これは単純な計算や音読などを行う「脳トレ」とは異なるものです。
ヒトは、脳システムの活性化によって、感覚信号の意味を創ります。そこには個人的な感情や体験の記憶に
基づいたプライベートな意味という重要な情報(私にとっての…な感じ)が含まれています。
私たちは、これらの情報を基に自分の行為行動を決定し、脳は自由自在なプライベートな行為や行動を創り
出しています。
「歩く」という行為を考えてみると、平らな道・砂利道・通行者が混み合っている道等周りの条件によって、
歩き方を自然に変化させて対応しています。
気乗りがしない場所に出向く時や再会を楽しみに待ち合わせ場所に向かうというような自分自身の気持ちに
よっても、歩き方は当然変化しています。
歩くという動作だけでも、まったく違う運動の連続になっていることがわかると思います。
何種類もの(精確には無限大の)運動の組み合わせの選択が自由にできることが、自分にとって違和感のな
い生活を保障しているとも言えます。
このような複雑な運動が可能となる背景には、脳の中での運動プログラムとからだで起きる実際の運動が矛盾なく一致した状態が必要となります。
しかし、脳卒中などで脳の現場に問題が生じた場合や、骨折などでからだの現場に問題が生じた場合には、
脳とからだを繋ぐシステムが病前のように機能しなくなってしまいます。
からだでキャッチして脳に送った感覚信号の意味が、現実とは違ったものに創られてしまうことや、運動プロ
グラムそのものが創れない、ある一部分の限られた運動プロクラムしか創れないことなどが起きてきます。
患者さんにご自身のからだに関して伺ってみると「手や足の位置が全く分からない」「関節が動いているのを
感じられない」「どのように動かせばよいか分からない」などの声を聞くことが多くあります。
最も基本となる自分自身のからだの在りよう(これを身体イメージと呼びます)が分からなくなっているのです。
そこで当院でのリハビリでは、先ずは患者さんご自身に、ご自分のからだの在りようを感じ取ってもらうことか
ら始めています。
では、実際にはどのようなことをやっていくのでしょうか?
各個人によってそれぞれ異なる訓練課題を実施していきますが、おおむね、からだの声を聴くために工夫さ
れた課題となります。
例えば、目をつぶってもらって身体の位置や動きを想像したり(視覚イメージ)、力の入り具合を想像したり
(運動イメージ)します。
またさまざまな感触の素材を触って、その質感を感じ取る課題や配列や順番を考えるような記憶を用いた課
題なども行うことがあります。
場合によっては、自動運動で簡単な探索課題を行う場合もありますが、いずれの場合にも、回答を自分で導
きだし、それを比較するという手続きをふみます。
「感じてみましょう」「では確かめてみます」「いかがですか」といった一連の流れの中で、からだで感じ取れることや動きのスムーズさや自在さへの変化を新たな経験として積み重ねていけるように進めていきます。
「たくさんの感覚信号の中から、何か特定の信号に注意を向けて感じ取り(知覚して)、それをいったん記憶し
て言語化する過程」を『認知機能』と言いますが、当院でのリハビリではそのような認知機能を最大限利用して麻
痺の改善へと繋げていきます。
失語症や言語障害などをお持ちの方でも、同様に訓練をおこなうことができます。
「たくさんの感覚信号の中から、何か特定の信号に注意を向けて感じ取り(知覚して)、それをいったん記憶し
て言語化する過程」の言語とは一般の言葉のことではなく、専門用語では内言語と呼ばれている「言葉の素に
なるような情報」です。
失語症は、この内言語の想起の困難性が問題となりますので、失語症に対しても効果が期待できます。
ご興味のある方は、ぜひご相談ください。